違法ダウンロードへの規制を強化する著作権法の改正案の議論が進んでいます。
改正案は違法行為の対象を大幅に広げることになりますが、賛否両論があるんです。
ネット利用を委縮させることになるのではないか?と危惧されてもいるんですね…。
違法ダウンロードへの規制を強化する著作権法の改正案について解説します!
著作権法改正の柱はダウンロード規制対象の拡大
今国会に提出される予定の著作権法の改正案が、議論を呼んでいます。
ダウンロード規制の対象を拡大する方向を示したことで、一般のネット利用に影響が大きく、与党自民党内部からも反対意見が出る状況に。
まずは今回の著作権法改正案の概要を見てみましょう。
著作権法改正案はどこが変わるの?
現行法 | 改正後 | ||
民事措置 | 対象著作物 | 違法アップロードされた音楽・映像 | 違法アップロードされた著作物全般 |
構成要件 | 違法アップロードと知りながらダウンロードした場合が対象 | 現行通り(以下備考) ➀違法と知らなかったダウンロードは違法とならない ②違法、適法の判断を間違えた場合のダウンロードも違法とはならない |
|
刑事罰 | 対象著作物 | 違法アップロードされた音楽・映像で、正規版が優勝提供されているもの | 違法アップロードされた著作物全般で、正規版が優勝提供されているもの (備考)2次創作された著作物は除外 |
構成要件 | 民事措置と同じ | 民事措置と同じ | |
常習性 | - | 継続的または反復して行う場合 | |
量刑水準 | 2年以下の懲役または200万円以下の罰金 | 現行通り | |
扱い | 大部分が親告罪 | 現行通り |
(2019年3月8日付産経新聞『違法ダウンロード規制の項目を削除へ』を参考に作成)
今回の著作権法改正案で、どこが変わるのか?現行法と比較した表がこちらです。
ダウンロード規制の対象を、これまでの音楽・映像から、「著作物全般」に拡大することが改正案の柱であることが分かります。
その一方で、刑事罰については、「継続的または反復して行う場合」など悪質性が高いと判断される行為に限定しています。
「全著作物」のなかには漫画・雑誌・論文等も含まれる
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 著作者 著作物を創作する者をいう。
(出典:e-Gov法令検索「著作権法」)
日本の著作権法における著作物の定義はこの通り。要素を分解すると次のようになります。
- 思想又は感情 を
- 創作的 に
- 表現 したもの
- 文芸、学術、美術又は音楽の範囲 に属するもの
表現ではない事実や事件、データとか思想・アイディアそのものや感情そのもの、創作の加わっていない模倣品は著作物とは見なされないということになりますが…。
逆に言うと、それ以外はすべて著作物ということ。
今回の著作権法改正案のダウンロード規制の対象としては、漫画・雑誌・論文等が幅広く含まれることになります。
スマホで違法コンテンツをスクリーンショットに獲るのもNG
今回の著作権法改正案をめぐる報道で、「スマホのスクリーンショットも違法!?」という所だけが切り取られて報道されることが多いのですが、出典はこちらです。
法案のたたき台となる文化庁の報告書に、「スクリーンショットも対象に入る」旨の注記があり、それで話題となっているんですね。
報告書の記述では、スクリーンショットに限らず、「自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製」全般を指しています。
著作権法改正への反論が多く政府も法案修正へ
今回の著作権法改正案については、各所から懸念の声が寄せられています。
本来はこの法案によって保護される立場の著作者からも、批判・異論・懸念の声が多く聞かれます。
日本漫画家協会は「丁寧で十全な審議を要望する」旨の声名
今回の改正措置は、まだ記憶に新しい「脱法サイト」対策として取り組んで頂いているという理解から、当協会として前向きに改善を提言することで声明とする。
民事的規制及び刑事罰のいずれについても1. くり返し複製する「反復」行為を対象とすること。(刑事罰のみ)
2. 原作マンガ等を原作のまま、まるごと複製する行為を対象とすること。
3. 権利者の利益が不当に害される場合に限定すること。改正の主旨は「脱法サイト対策」である。
施行により懸念される対象範囲の拡大については、表現や研究などの萎縮はもとより、人権の制約につながることが決してないように、丁寧で十全な審議を要望する。公益社団法人 日本漫画家協会
(出典:2019年02月27日付、日本漫画家協会『「ダウンロード違法化の対象範囲見直し」に関する声明』より)
公益社団法人日本漫画家協会は、今回の著作権法改正案については批判的な立場にあると報道されています。
声明の趣旨としては「丁寧で十全な審議を要望」、つまり具体的には再考を促しているかたちです。
マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(MANGA議連)も反対の意向
マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(MANGA議連)は、今では日本を代表する文化・産業となったコンテンツ産業を担うクリエイター等の環境改善と次代を担う人財育成に関する課題を解決するために設立された超党派の議員連盟です。
MANGA議連会長の古谷圭司氏は、3月6日夜、安倍晋三首相と電話会談し、ダウンロード規制の拡大に反対する意向を伝えたことが報じられています。
産経新聞の報道では、この電話会談の後、安倍首相は違法ダウンロードに関する項目の削除を指示。日本政府は法案修正の上、今国会での成立を目指す方向に転じたということです。
違法ダウンロード規制強化への反論が続出【著作権法改正案が修正される見通しに】まとめ
違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案に対しての反論が続出。法案が修正される見通しとなったことをお伝えしましたが、いかがでしたか?
- 今国会に提出される予定の著作権法改正案では、ダウンロード規制の対象を「著作物全般」に拡大する方向が示されていました。
- 「著作物全般」のなかには、漫画・雑誌・論文等が幅広く含まれます。
- その一方で、刑事罰については、「継続的または反復して行う場合」など悪質性が高いと判断される行為に限定。
- スマホで違法コンテンツをスクリーンショットに獲るのもNGとなることが話題に。
- 日本漫画家協会、MANGA議連など反対の声が続出したことで、政府は法案を修正する方向と報じられています。
著作権についての考え方は、世界的にはEU圏を中心に厳格化の流れが強く、今回の著作権法改正案は世界的な潮流も踏まえたものだったのでしょう。
とは言え、日本では二次創作が非常に活発に行われていて、それがコンテンツ産業を支えている部分もありますので、一律に諸外国と同じ議論も難しいですよね…。
ネットユーザーとしての立場からは、ダウンロード規制強化の見直しは有難い方針転換とも言えますけれど、何が正解なのかは本当に難しいと思います。
まずは今国会での法案修正の動きを見守りたいと思います!