2019年8月23日、健康保険組合連合会が花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言を発表。
負担割合を減らすとかではなくて『保険適用外』、つまり10割負担ということなのですが…。
来春の花粉症の季節はどうやって乗り越えたら良いの?
そんな声も聞こえてきそうですが、『保険適用外』となるのはあくまでも花粉症治療薬の一部ということには注意が必要です。
健康保険組合連合会による、花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言について解説します!
健康保険組合連合会(健保連)の財政状況悪化が背景に
健康保険組合連合会(健保連)が、花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言を行った背景には、少しでも医療費削減を図りたいという思惑があります。
少子高齢化が進行する中で、健保組合の財政状況は厳しさを増してきています。
高齢者が増加する一方で、支える側の現役世代の数は限られるわけですから、当然と言えば当然なのですが…。
まずは健康保険組合連合会(健保連)の基本情報と、財政状況を見てみましょう。
健康保険組合連合会(健保連)の基本情報
組織名 | 健康保険組合連合会 ※略称:健保連(けんぽれん) |
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設立 | 1943年(昭和18年)4月29日 |
根拠法 | 健康保険法 |
役割 | 全国の健康保険組合の連合組織 |
ホームページ | 健康保険組合連合会 |
健康保険組合連合会(健保連)は、一定規模以上の社員(被保険者)のいる企業が設立する健康保険組合の連合組織です。
平成30年4月1日時点で、全国の1389の健康保険組合で構成され、被保険者とその家族を合わせると、全国民のおよそ4分の1に当たる約3000万人が加入しています。
健康保険組合連合会(健保連)は、1943年(昭和18年)に健康保険法に基づく公法人として設立。現在では、健保組合の代表として、健保組合の発展と持続可能な医療保険制度の実現を目指して、さまざまな活動をしています。
健康保険組合連合会(健保連)の財政状況はかなり厳しい
健康保険組合連合会(健保連)が今回のような提言を行った背景には、健保組合の厳しい財政状況があります。
平成21年度には5,234億円もの赤字を計上。その後、平成26年度以降は黒字に転じますが、平成30年度からは再び赤字に転落しています。
過去10年ほどの推移を見ると、体質改善が進んでいるのは間違いないように見えますが、かなりぎりぎりの危ういラインで推移している状況であることも分かりますね…。
根本的には、高齢化で医療費が増加する一方で、保険料を支払う立場の現役世代の人口が減少していることが原因です。
- 赤字を出さずに収支均衡とするための実質保険料率は:9.479%
- 健保組合の平均保険料率(平成31年3月1日現在):9.218%
本来必要な保険料率①に、実際の保険料率②が足りていないために赤字状況となっているのですが、既に月額報酬の1割近くが健康保険料として徴収されている状況では、なかなか料率アップも困難という事情があるんですね…。
『保険適用外』となるのは花粉症治療薬の一部
今回の健康保険組合連合会(健保連)の提言は、花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言であって、全てを『保険適用外』とする意図を持つものではありません。
ここは重要なポイントなので誤解の無いようにしてくださいね!
花粉症治療のどの段階を『保険適用外』とすべきと提言されているのか、そこを理解するためには現状の花粉症治療ガイドラインを把握する必要があります。
花粉症治療ガイドラインの『軽症』が提言の焦点
花粉症の治療方法は、日本鼻科学会や日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会などの専門医である医育機関・研究機関の指導者などによって構成されている「アレルギー診療ガイドライン作成委員会」によって定められています。
ガイドラインは、1993年の第1版から始まり更新が繰り返されていて、現在最新のガイドラインは2016年版(第8版)です。
花粉症治療ガイドラインでは「軽症」に相当する場合、治療薬のいずれか1つを投与することが定められています。花粉症治療の初期療法は、原則としては1つの薬を投与することから始まるということです。
健康保険組合連合会(健保連)では、花粉症治療薬の初期治療に用いられる治療薬が、スイッチOTC医薬品の普及によって個人でも十分購入可能な状況になっていることに注目し、医療費削減が可能ではないかと考えているのですね。
スイッチOTC医薬品の普及により自己対応可能と提言
- 診療ガイドラインによると、花粉症の初期療法や軽症においては、第二世代抗ヒスタミン等、通常1分類の薬剤で治療を開始することとなっているが、
- 近年、第二世代抗ヒスタミン薬のスイッチOTC医薬品が相次いで市販されており、市販薬市場で広く流通していて入手も容易で、
- スイッチOTC医薬品の購入価格は、医療機関を受診しOTC類似薬を処方された場合の自己負担額と大きな差は確認できなかった。
健康保険組合連合会(健保連)の花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言の要旨はこの通りです。
「スイッチOTC医薬品」とは、医療用医薬品の中から、使用実績が蓄積されていて、副作用の心配が少ないなどの要件を満たした医薬品を薬局などで処方箋なしに購入できるように一般用医薬品として認可したものを指します。
要約すれば、花粉症の治療で医療機関を受診したとしても、初期治療、軽症の段階では市販薬(スイッチOTC医薬品)と同等のものを投与されるだけなのだから、『保険適用外』にすべきということです。
花粉症の初期段階では自分で治療薬を購入して対処することを推奨すると、そう明言してはいませんが、実質的にそういう意味と捉えて良いと思います。
『中等症』以上で複数の医薬品を併用する場合は従来通り保険適用
今回の健康保険組合連合会(健保連)の提言は、『1分類のみ投薬する場合』については『保険適用外』とすべきということです。
先のガイドラインを見ると、軽症を超えた、中等症以上の段階では、複数の医薬品を併用する場合があることが分かりますが、この場合は今回の提言の範囲に含まれません。
単純化して言うと、花粉症の症状が重く、複数の医薬品を併用する必要がある場合については、従来通り保険適用が適当と考えられているということです。
【衝撃!】健康保険組合連合会が花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきと提言!まとめ
健康保険組合連合会が花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきと提言したことをお伝えしてきましたが、いかがでしたか?
- 2019年8月23日、健康保険組合連合会が花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言を発表。
- 具体的には、花粉症が軽症で『1分類のみ投薬する場合』については『保険適用外』とすべきという内容です。
- 花粉症の治療で医療機関を受診しても、初期治療・軽症の段階では市販薬(スイッチOTC医薬品)と同等のものを投与される現状があります。
- 健康保険組合連合会(健保連)が今回のような提言を行った背景には、健保組合の厳しい財政状況があります。
- 『保険適用外』となると10割、全額自己負担ということになるので負担増が気懸りですが、複数の医薬品を併用する、より重い症状の場合は従来通り保険適用とする提言内容です。
健康保険組合連合会では、今回の提言による医療費の削減効果は最大で約600億円程度としています。現時点の赤字分の過半程度はカバーできる計算もできますけれども…。
こういう動きを見ると、少子高齢化による影響は広い範囲に及ぶことが良く分かりますね。
念のため繰り返しておきますが、現段階では「提言」であって「決定」ではありません。
健康保険組合連合会の花粉症治療薬の一部を『保険適用外』にすべきという提言は、これから中央社会保険医療協議会(中医協)などで議論される見通しです。
『お金節約.com』編集部としても、今後の動きは追いかけて行きたいと思います。