2019年2月18日、全日本空輸(ANA/NH)グループが燃油サーチャージの改定を国土交通省に申請したことを公表。
この申請によって、ANAの国際線航空運賃が安くなるのでは!?
GWの旅行シーズンを前に、そんな期待が高まっています。
そもそも燃油サーチャージとは何なのでしょうか?
国際線利用客が航空券購入時に支払っている『燃油サーチャージ』について解説します!
燃油サーチャージとは燃油価格変動に対応した追加料金
飛行機の航空券を購入する時に「燃油サーチャージ」という言葉を見かけるけれど…。
これって一体何?そう思っている人も多いのではないでしょうか。
「燃油サーチャージ」は、国際線利用客が航空券購入時に支払う燃油特別付加運賃のことなのですが、これだけではちょっと分かり難いですよね。
今回は「燃油サーチャージ」について解説します!
燃油サーチャージ導入の経緯
1975年(昭和50年) | 第一次オイルショックに伴う原油高騰に対する措置として海運業で導入 |
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1997年(平成9年) | 国際航空運送協会が、制度を認可 |
2001年(平成13年) | 日本で、貨物機について導入開始 |
2005年(平成17年) | 日本で、旅客について導入開始 |
2008年(平成20年) | 国土交通省、燃油サーチャージを含んだ総額の表示を指示する通達 |
燃油サーチャージは、元々は船便、海運業で導入された制度です。
船でも飛行機でも同じですが、いくらぐらいの機材(船・飛行機)を用意するのか、それを運用する人員に支払う給料はいくらか?その見込みが立たなければ、経営ができません。
ところが、燃料代の価格は、市場の動向によって大きく変化します。
特に2003年のイラク戦争を契機に、原油価格が高騰!航空業界でも、燃油サーチャージを別途徴収する必要がでてきたわけです。
燃油サーチャージが日本で旅客向けに導入されたのは、2005年(平成17年)から。
国土交通省が旅行業界に対して、燃油サーチャージを含んだ総額の表示を指示する通達を出したのは、2008年(平成20年)です。
導入されてから10年ちょっとの制度ですから、まだまだ馴染みが薄いという人も少なくないでしょう。
航空運賃が安いのは燃油サーチャージがあるおかげ?
2017年3月期 | 2018年3月期 | 伸び率 | |
売上高 | 15,363億円 | 17,311億円 | 112.7% |
燃油費・燃料税 | 2,736億円 | 3,006億円 | 109.9% |
売上比率 | 17.8% | 17.4% | |
営業利益 | 1,395億円(約9%) | 1,568億円(約9%) |
(全日本空輸グループ決算資料より『お金節約.com』編集部作成)
燃油費・燃料税が、航空会社の経営にどのぐらい影響を与えているのか、全日本空輸(ANA/NH)グループの決算資料から見てみましょう。
直近の2期を見ると、燃油費・燃料税の費用は、売上比で約17~18%程度で推移していることが分かります。
全日本空輸(ANA/NH)グループの営業利益率は約9%程度ですから、もし燃油サーチャージ無ければ、燃料価格が50%程度高騰すると赤字に陥ってしまいます。
先の原油価格のグラフを見ると、2000年以降は、1バレル(約159リットル)当たり40ドル~120ドル程度で推移してきていて、変動率としては最大300~400%にも達します。
燃油サーチャージを徴収することができない場合、航空会社が万一の破綻を回避しようとすると、ものすごく高い料金に設定する必要がありますよね…。
LCC(格安航空会社)が世界的に発展してきた背景には、燃油サーチャージの徴収によって、燃油費の高騰リスクから解放されたことも大きいと思います。
燃油サーチャージを支払うのは確かに嬉しくは無いのですけれど、燃油サーチャージの設定があるおかげで、航空運賃を安く設定できるというメリットもあるんです。
2019年4月1日発券分からANAが「燃油サーチャージ」を値下げ
2019年2月18日、全日本空輸(ANA/NH)グループが燃油サーチャージの改定を国土交通省に申請したことを公表しました。
路線によっては、片道1万円以上安くなります!
ケロシンタイプジェット燃料のシンガポール市況価格が下落
全日本空輸(ANA/NH)グループが燃油サーチャージを改定するのは、シンガポールのケロシン市況価格が値下がりしているためです。
ケロシンとは、航空機のジェット燃料の主成分となるもので、アジア地域の燃油サーチャージは、シンガポールのケロシンタイプジェット燃料の市場スポット価格に基づいて定められています。
アメリカの先物市場・オプション市場の調査会社『ino.com』が提供しているチャートを見ても、昨年末から、シンガポールのケロシン価格が大きく値下がりしていることが分かりますね!
長距離便では片道1万円以上の値下げに!
路線(日本からの行き先) | 変更前 | 変更後 |
北米(ハワイ除く)・欧州・中東・オセアニア | 17,500円 | 7,000円 |
ハワイ・インド・インドネシア | 11,000円 | 4,000円 |
タイ・シンガポール・マレーシア・ミャンマー・カンボジア | 8,500円 | 3,000円 |
ベトナム・フィリピン・グアム | 5,000円 | 2,000円 |
東アジア(韓国を除く) | 4,500円 | 1,500円 |
韓国 | 1,500円 | 300円 |
(出典:ANAプレスリリース2019年2月18日付より)
- 適用期間:2019年4月1日(月)以降の航空券発券分より
- 改定条件:2019年4月1日~2019年5月31日発券分に適用
- 2019年6月1日以降の燃油サーチャージ額は、4月を目処に公表
2019年4月1日(月)以降の航空券発券分より適用という条件付きにはなってしまいますが、北米・欧州など長距離路線では片道1万円以上の値下げになるのは嬉しいですね!
今後の燃油サーチャージは燃油価格次第
ANAが公開している『燃油サーチャージ改定基準テーブル』を見ると、シンガポールのケロシン価格がさらに下がって、6,000円以下になれば「燃油サーチャージ徴収無し」となる可能性もあることが分かります。
石油製品の価格は、国際情勢にも大きく左右されます。
簡単にいうと、安全保障をめぐる緊張が高まると価格が高騰し、緩和すると価格が下落するという相関関係があるわけですが…。
世界が平和になる恩恵は、海外旅行にお安く行けることにもつながっているんですね。
ANAプレスリリース2月18日付『国際線旅客「燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)」の改定を申請』
ANAが『燃油サーチャージ』を値下げへ!まとめ
燃油サーチャージとは何か?そしてANAの燃油サーチャージ値下げの動きについて解説してきましたが、いかがでしたか?
- 燃油サーチャージは、燃油特別付加運賃とも呼ばれる、燃油価格の変動に対応した追加料金のことです。
- 燃油サーチャージは利用者の負担にもなるものですが、燃油の変動リスクを軽減することで、航空運賃を安く設定できるメリットもあります。
- アジア地域の燃油サーチャージは、シンガポールのケロシン市況価格に基づいて設定されています。
- シンガポールのケロシン市況価格が値下がりしていることで、ANAは燃油サーチャージを値下げすることを発表。
- 4月1日の発券分からは、長距離便では1万円以上の値下がりとなります!
今回のANAの燃油サーチャージ値下げの動きは、国際的に原油価格が安定・値下がりしていることでもたらされました。
原油価格が国際情勢に大きく左右されることを考えると、平和の恩恵と言っても良いかも知れません。
2月末には、アメリカと北朝鮮の首脳会談がベトナムのハノイで開催予定。
アメリカが中国製品に対する追加関税の引き上げを、3月1日の交渉期限から60日間延期することを検討するなど、緊張緩和とも言える動きが見られますが…。
今後も世界情勢からは目が離せません!