2019年8月30日、総務省が主管する「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」が『AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)』を示しました。
AMラジオ放送の停波や、FMラジオ放送への転換などが提言されたことで、AM放送が無くなっちゃうの!?と、ちょっとした話題になっています。
提言の背景には、AMラジオ局の収益悪化が進み、AM放送設備を更新する設備投資が困難になっている事情があります。
「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」の『AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)』について解説します!
総務省の有識者会議『放送事業の基盤強化に関する検討分科会』
総務省では、ローカル局の経営基盤強化のあり方および放送事業者の経営ガバナンスの確保等について検討を行うため、「放送を巡る諸課題に関する検討会」の下に「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」を設置。2018年(平成30年)11月から定期的に討論を重ねてきました。
2019年(平成30年)8月30日、第7回の検討分科会が開催。AMラジオ局がAM放送をやめワイドFMに一本化することを容認する方針を示したことで注目を集めています。
「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」の主な検討事項
- 放送事業者の経営の現状分析・今後の見通し
- 放送事業者の経営基盤強化のあり方
- AMラジオのあり方
- 放送事業者の経営ガバナンス確保
放送事業の基盤強化に関する検討分科会では、こちらの4つを主要なテーマに検討。
令和元年(2019年)7月に中間報告を出していたのですが、この段階では放送事業者の経営の現状分析とか今後の見通しが中心で、③AMラジオのあり方については夏~秋に議論を進めるとしていました。
そして今回、予告されていた「AMラジオのあり方」についての提言が出されたという流れなんですね。
「AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)」の提言内容
(1)基本的な方向性
民間AMラジオ放送事業者の経営は厳しく、企業努力で対応できる範囲を超えており、AMラジオ放送の停波も含む運用の工夫による経営基盤強化を図ることができるよう、民放連の要望を踏まえ、以下の課題を検討しつつ現行制度を見直すべきである。
(2)今後検討すべき課題民間AMラジオ放送事業者が、AMラジオ放送からFMラジオ放送への転換や両放送の併用(以下「FM転換等」という。)する場合、①から④の観点から、課題を整理し、対策を講じる必要があると考えられる。
①カバーエリアの観点
AMラジオ放送は、FMラジオ放送に比べて、山間地までカバーしやすい特性があり、FM転換等を行った場合には、これまで受信ができていた山間地等の一部で、受信ができなくなる可能性があることから、そのような地域に情報を届ける方策について検討することが必要である。また、トンネルでは、現在、AMラジオ放送だけを再放送している(FM補完放送は再放送していない)ことが多いので、その対策についても検討が必要である。
②対応受信機の観点
FM補完放送の周波数に対応した家庭用ラジオ(カーラジオを除く。)の普及率は、全体の5割強と推計される。今後、この普及率を引き上げるための取組が必要である。また、FM転換等に向けて、その普及率を定期的に確認しながら、FM補完放送の周波数に対応したラジオの普及を進めていくことが必要である。
③周知広報の観点
FM転換等を行う場合には、「AMラジオ放送が停波すると、これまで聴いていたAMの周波数では、その放送は受信できなくなる」ということを、国民・聴取者に、十分に周知する必要がある。特に、災害時の備品として買ったAM専用ラジオ(普段は使用していないラジオ)では、FMラジオ放送を聴くことができないことに、災害時まで気がつかなかったというようなことがないよう、関係者と協力して十分に周知すべきである。
④周波数の効率的な利用の観点
FM転換等を行う場合には、カバーエリアを拡大するために、新たなFM中継局整備が必要となると考えられる。既にFM用の周波数はひっ迫していることから、中継局整備のために、同期放送の積極的な導入等周波数の効率的な利用の推進が必要である。
放送事業の基盤強化に関する検討分科会では、『AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)』にて、このような提言を示しました。
AMラジオ放送の停止(停波)、FMラジオ放送への転換について言及したことで、にわかに注目されたのですね。
次からは、このような提言が行われた背景を、放送事業の基盤強化に関する検討分科会の資料をもとに解説します。
【原因】AM放送の運営が厳しい理由とは?
公益性も高いAMラジオ放送ですが、聞く側としては非常に簡単な受信機で大丈夫なのですけれども、送信側は大規模な施設が必要となり、ここが非常に大きな課題となっています。
まずは、AM放送とFM放送の違いから見てみましょう。
そもそもAM放送とFM放送の違いとは
AM放送は、建物の内部では聞こえ難い点はありますが、屋外で受信する分には、地形による影響を受け難いというメリットがあります。
その一方で、送信には100mを超えるアンテナが必要となるなど、主に設備投資面での課題も大きい状況です。
- AM放送(AM:amplitude modulation)振幅変調とも呼ばれ、情報を搬送波の強弱で伝達する変調方式のこと
- FM放送(FM:frequency modulation)周波数変調とも呼ばれ、情報を搬送波の周波数の変化で伝達する変調方式のこと
技術的にはこのような特徴があるとされます。
比較表を見ると、AM放送とFM放送の違いが良く分かりますね。
聴く側、受信する側からAM放送のメリットデメリットをまとめると次のようになります。
- AM放送のメリット:受信機の回路構成が単純で済み、送信所から遠方の地域でも地形の影響をまあり受けることなく聴取が可能なこと。
- AM放送のデメリット:室内で受信し難いこと、雑音が混じりやすいこと。
AM放送には100mを超える送信アンテナが必要
AM放送を送信する側の課題としては、100mを超える送信アンテナが必要となるなど、かなり大きな設備投資を求められる点です。
日本のAM放送局(民放)では、送信柱の更新時期を迎えていますが、費用的に難しいという現実があります。
AMラジオ局の営業収入はピーク時から60%減少
AMラジオ局の営業収入は、減少傾向が続いています。
1991年には2,040億円あった営業収入が、2017年度には797億円まで減少。ピーク時から60%以上減少していて、設備投資の費用が十分捻出できない状況に…。
放送事業の基盤強化に関する検討分科会では、世界各国の状況についても言及されていますが、ヨーロッパを中心にAM放送の停波は世界的な傾向として進んでいるようです。
【課題と対策】AM放送
AMラジオ放送は、災害時などに非常に役に立ちますよね。東日本大震災の時にも、ラジオが有力な情報源となりましたが、最近でもこの傾向は変わっていないようです。
AMラジオ放送が止まることに対しては懸念も多く、さまざまな対応策が考えられています。
FM補完放送対応端末の普及率は約53%
AM放送が止まると言っても、放送コンテンツが無くなるわけではなくて、FM波への切り替えが検討されています。
これは、テレビの地上アナログ放送が停波したことで、空いた周波数の一部(90.1MHzから94.9MHz)までの周波数を利用しようという試みなのですが…。
既にAM放送の主要局では対応を開始していますが、受信するためにはいわゆる「ワイドFM」対応のFMラジオが必要です。
放送事業の基盤強化に関する検討分科会の資料では、現在約53%の普及率のところ、10年間で約88%の普及率と予測しています。
率直に言うと、車載ラジオなどは順次置き換えが進むとは思うのですけれども、家庭用ラジオの置き換えが進むかどうかはかなり疑問も感じます。
そもそも新しくラジオを買おうという人が限られると思いますので…。
ここまで全ての画像出典:放送事業の基盤強化に関する検討分科会(第7回)配布資料『AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)』より
Radiko(ラジコ)などインターネット受信の普及が現実的?
AMラジオ放送を受信する手段としては、スマホアプリのRadiko(ラジコ)の普及を促進する方向がより現実的では無いでしょうか。
Radiko(ラジコ)の活用については、放送事業の基盤強化に関する検討分科会でももちろん言及されています。
Radiko(ラジコ)は民放主体の運営でしたが、2019年4月からはNHKも受信可能になって利便性がさらに向上しています。
Radiko(ラジコ)のダウンロード先をご紹介しておきますね。
radiko
radiko Co.,Ltd.無料posted withアプリーチ
総務省の検討分科会にて『AMラジオ放送の停波』『FMラジオ放送への転換』などが提言!まとめ
「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」が示した『AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)』について解説してきましたが、いかがでしたか?
- 2019年8月30日、総務省が主管する「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」が『AMラジオ放送のあり方に関する取りまとめ(案)』を示しました。
- 提言の背景には、AMラジオ局の収益悪化が進み、AM放送設備を更新する設備投資が困難になっている事情があります。
- AMラジオ放送の停波や、FMラジオ放送への転換などが提言されたことで、AM放送が無くなるという危惧もありますが、放送自体は継続される方向です。
- FM補完放送対応端末(ワイドFM対応受信機)の普及が期待されていますが、予測通りに進むかどうか微妙かと思います。
- Radiko(ラジコ)などインターネット受信を促進する方向も示されています。
今回の「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」の提言によって、AM放送を取り巻く環境が大きく変化することになるかも知れません。
AMラジオには独特の文化もありますから、AM放送が停波となっても何らかのかたちで継承されて欲しいとは思うのですが、受信の手段は議論を呼びそうです。
どこでもスマホで気軽に聞けるので、聴く側の都合だけならRadiko(ラジコ)活用がおすすめなのですが、民放では広告収入についても考慮する必要があるでしょうから…。
※Radiko(ラジコ)でも、民放は広告もそのまま再生される仕様にはなっています。
AMラジオ放送が今後どのように変わっていくのか、注目したいと思います。