世の中では、平成から令和への改元を記念する行事が数多く行われていますね。
平成という時代を振り返るとき、最大の出来事はやはり東日本大震災ではなかったかと思います。
観測史上最大の地震であり、津波の影響として東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生。
現在でも廃炉に向けた作業が日々行われています。
改元のタイミングで、東京電力の廃炉資料館を訪問してきましたので、レポートします。
東京電力「廃炉資料館」は福島原子力事故の事実と廃炉事業の現状を確認する場
東京電力「廃炉資料館」は、福島原子力事故の事実と廃炉事業の現状を確認する場として、2018年(平成30年)11月30日に開館しました。
今回訪問してみて感じましたが、展示内容は非常に充実しています。
福島原子力事故の事実と現状を確認する場としては、非常におすすめできる施設です。
東京電力「廃炉資料館」の基本情報
施設名 | 東京電力 廃炉資料館 |
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住所 | 〒979-1111 福島県双葉郡富岡町大字小浜字中央378 |
開館時間 | 9時30分~16時30分 |
休館日 | 毎月第3日曜日および年末年始 |
入館料 | 無料 |
備考 | 駐車場有り(無料) |
施設ホームページ | 東京電力 廃炉資料館 |
東京電力「廃炉資料館」は、国道6号線の富岡警察署交差点に面しています。車で行くならナビを使うのが一番ですが、もし廃炉資料館のデータが無ければ、「双葉警察署」を目標に進むと良いです。国道6号線を挟んで、双葉警察署と廃炉資料館は向かい合っています。
電車で行く場合は、JR常磐線の富岡駅下車から廃炉資料館までの距離は約1200m。廃炉資料館のホームページでは、富岡駅から徒歩15分・タクシー5分と案内しています。
東京電力「廃炉資料館」を訪問する際の注意点
- 津波や原子力事故の映像はありますが、人的被害を直接映した映像はありません。
- その意味で、基本的に全年齢対象で視聴可能と考えて良いと思います。
- ただし資料館の性格上、「笑い」を取るような要素、そうした意味での訪問者へのサービスは一切ありません。
- NHK特集などのドキュメンタリーを飽きずに視聴できる年齢の子どもなら同伴可能かと思います。
今回訪問してみて感じた注意点としては、このような感じになるかと思います。
画像・映像については、水素爆発の瞬間の映像、原発施設を津波が襲う映像などは上映されますが、生身の人間が何らかの被害を受けている様子を描写した展示はありません。
映像レイティングとしては全年齢対象と考えて良いと思います。
全体的に、NHK特集のようなドキュメンタリー番組に近いテイストなので、子どもを同伴する場合にはそこは考慮すると良いと思います。
展示内容は主に映像で情報を伝えるかたちですので、「音」がかなり重要です。
個人的には、泣き声を自分で抑えることができない幼児の同伴は避けた方が無難なようには思いました。
東京電力「廃炉資料館」は極力政治性を排除
原子力発電については、賛成・反対、両方の立場があり、どうしても政治性を持たざるを得ないテーマですよね。
東京電力「廃炉資料館」は、原子力発電の是非については原則的に言及がありません。
あくまでも、東日本大震災の津波により深刻な事故が発生した経緯と、事態の収拾(廃炉)に向けた一連の状況を展示する「資料館」という位置づけです。
その意味では政治性を極力排除していると言えると思います。
東京電力の謝罪のメッセージは非常に真摯なものという印象
東京電力「廃炉資料館」では、福島原子力事故の発生の経緯と廃炉事業の現状を客観的に展示しています。
廃炉の現状については、かなり率直に現状を伝えているように感じられました。言い換えると、楽観的な脚色は一切ありません。
事態を客観的に伝える一方で、東京電力の主観的な立場から発せられる謝罪のメッセージは、非常に真摯なものという印象を受けました。
津波対策が不十分であったこと、その背景には「安全に対するおごりと過信」があったことを率直に認めています。
謝罪と反省のメッセージは、展示内容の流れのなかで、何度も繰り返し表明されます。
個人でも組織でも、ここまでストレートに自らの過ちを認め、公に表明することはそう簡単に出来ることでは無いだろうと、そう感じられるものでした。
企業の広報とか、危機管理を担当している方は、必ず一度は訪問しておいた方が良いように思います。会社の研修の一環として組み込むのも良いのではないでしょうか。
- 映像での情報発信が中心となりますが、映像表現的には全年齢視聴可能と思って良いです。
- 泣き声を抑えることができない幼児の同伴は避けた方が無難です。
- 原子力発電への是非については原則的に言及が無く、政治色は感じられません。
- 東京電力の謝罪と反省のメッセージは非常に真摯・誠実なものという印象を受けます。
東京電力「廃炉資料館」の展示内容【2階:過去部分】
ここからは東京電力「廃炉資料館」の展示内容を写真を交えてご紹介します。
順路としては、まず2階の展示を見てから1階に降りてくるかたちです。
- 2階:【過去】福島原子力事故の発生状況
- 1階:【現在】廃炉事業の進捗状況
基本的なタイムラインとして、このような区分になっています。
東京電力「廃炉資料館」の所要時間は標準2時間程度
東京電力「廃炉資料館」の展示は、とくに2階は映像が中心です。
文章と違って速読などが出来ず、基本的には解説映像(動画)を最初から最後まで見る必要が出てきます。
それぞれ5分~10分程度の映像(動画)ですが、すべてをしっかり見ると一定の時間はかかります。展示内容によっては、若干待つ必要も出てきますので。
東京電力「廃炉資料館」の見学所要時間としては、体感的には次のような感じかと思います。
- ポイントをおさえて要所だけ見て回る:1時間程度
- ある程度全体をしっかり見る:2時間程度
- 全展示をすべて詳細に見る:3時間程度
標準的には2時間程度を見込んでいれば良いのではないでしょうか。
どうしても時間が無い場合は、2階を中心に見学することをおすすめします。
「シアターホール」からスタート
東京電力「廃炉資料館」の見学は、2階の「シアターホール」から始まります。
写真のように30分刻みの上映スケジュールが告知されていますが、実際には、来館者がある程度集まったところで随時上映という柔軟な対応をしていました。
シアター内は撮影禁止なのですが、曲面の大スクリーンと、床投影を組み合わせて上映されます。福島原子力事故の概要を解説する動画なので、必ず見ておくことをおすすめします。
福島第一事故の対応経過
シアターホールを出たら、「福島第一事故の対応経過」に移動。
ここでは、福島第一原子力発電所の1号機から4号機を並べて表示、地震発生から電源復旧までの11日間の対応経過が示されます。
1号機から4号機を並べて表示することで、各原子炉への対応が相互にどのように影響を与えたのかが把握できます。例えば、1号機の水素爆発がその後に続く復旧作業の大きな妨げとなったことも分かります。
廃炉資料館の展示を通じて言えることですが、誤認による間違った対応などについても隠さずに示されています。
1~4号機の事象
次は「1~4号機の事象」として、福島第一原子力発電所の1号機から4号機それぞれの内部で生じた事象がモニターで表示されます。
表示モニターに移行する前に、原子炉建屋・原子炉格納容器・原子炉圧力容器の断面模型が展示されています。
その時、中央制御室では
「その時、中央制御室では」ここでは、事故発生当時の1・2号機の中央制御室の状況を再現したドラマが上映されます。
事故当時、「想定外」という言葉が良く聞かれましたが、東京電力が過酷事故の発生をそもそも想定していなかったこと、そのために現場の訓練や資材の準備が十分で無かったことが率直に述べられています。
福島第二の対応
その対面では「福島第二の対応」として、同じように津波に襲われながらも、過酷事故を回避できた福島第二原子力発電所の状況が示されます。
福島第二原子力発電所は、福島第一原子力発電所よりも10kmちょっと南にあることで、その分津波の高さが低かったという状況もありました。
交流電源が1系統確保できたことで、全電源喪失という事態には陥らなかったことが最大の要因だったことが分かります。
反省と教訓
「反省と教訓」は上映される映像は撮影禁止なのですが、内容をまとめた文章も掲示されています。
映像では、地震関係の専門家・専門機関からは、津波対策の必要性を数度に渡り警告されていたにも関わらず、実施しなかった事実も率直に言及されています。
- 「安全に対するおごりと過信」があり
- 津波対策を十分行わず
- 津波が来ると想定していないので、過酷事故対策も不十分であり
- 過酷事故が起こらないと思い込んでいたために、事故への準備も不十分となった
こうした反省を踏まえて、それぞれ対策を講じていくとしています。
あの日、3.11から今
さらに進むと「あの日、3.11から今」、ここでは事故対応にあたった所員の「生の声」を映像で視聴することができます。
福島原子力事故時系列
2階の最後は「福島原子力事故時系列」、福島原子力事故の状況を時系列でまとめています。
福島第一原子力発電所だけでなく、福島第二原子力発電所の状況も時系列で表示。相互の状況を確認することができます。
東京電力「廃炉資料館」の展示内容【1階:現在部分】
2階の見学が終わったら、1階に降りて現在の廃炉状況を見ていくことになります。
フロア中央にあるのが「エフ・キューブ」と名付けられた多面スクリーンです。
エフ・キューブ〈F・CUBE〉
「エフ・キューブ」のエフは”Fukushima”のFかと思いますが、外壁と内壁3方に、福島第一原子力発電所のさまざまな映像が投影される施設です。
福島第一で働くひとびと
「福島第一で働くひとびと」では、福島第一原子力発電所の作業員数が表示されています。
現時点では、3,980人/日が廃炉作業に従事していることが分かります。
廃炉への取り組みゲート -福島第一の今-
「廃炉への取り組みゲート -福島第一の今-」この先は、5つの展示ブースに分かれています。
①汚染水対策
福島第一原子力発電所の汚染水対策について、模型を交えて展示しています。
②燃料取り出し・燃料デブリ取り出し
2番目の「燃料取り出し・燃料デブリ取り出し」これが1階の中心的な展示内容になっています。
燃料デブリの取り出しが、壁面ディスプレイと床面スクリーンを組み合わせて解説されます。
床面スクリーンの直径は炉心と同じサイズ(4m)を再現していて、調査ロボットの動く様子などが映像で表示されます。
調査ロボットが燃料デブリ調査をどのように行っているのか、映像で解説しています。
1号機・調査用ロボットPMORPH(ピーモルフ)は重量約10kg、燃料デブリの広がり状態を調べるため、耐放射線性の高いカメラとLEDライト、線量計を一体にしたセンサユニットを装備。原子力格納容器の内部を遠隔操作で自走します。
3号機・調査用ロボット水中ROVは重量約2kg、カメラとLEDライトを前方と後方にそれぞれ1つずつ搭載した小型ロボットで、有線ケーブルにより水中をスクリューで移動します。
③労働環境改善
「労働環境改善」では、廃炉作業に従事する作業員の放射線対策が主に展示されています。
④廃棄物処理
「廃棄物処理」では、廃炉作業で発生した廃棄物の処理・保管施設を紹介しています。
➄技術開発と研究施設の紹介
「技術開発と研究施設の紹介」では、廃炉技術の開発状況を紹介しています。
この内部がVR体験スペース(撮影禁止)となっているのですが、バーチャルリアリティシステムで現場作業員の事前教育・反復訓練を行っていることを体験できます。
福島第一・中長期ロードマップ
「福島第一・中長期ロードマップ」では、廃炉作業終了までの目標が示されています。
最終的な廃炉作業終了は30~40年後とされており、終了時期を明確化できないことからも福島第一原子力発電所事故の深刻さが分かります。
情報スペース
1階には「情報スペース」も設置、飲食可能で、休憩所を兼ねている場所ですね。
「緑茶」「ほうじ茶」「りんご風味水」「コーヒー」「活性炭水」、それぞれHOT/COLDがあり無料で飲むことができます。
東京電力「廃炉資料館」で福島第一原子力発電所事故の現状を知る【まとめ】
東京電力「廃炉資料館」の訪問記はいかがでしたか?
- 東京電力「廃炉資料館」は、福島原子力事故の事実と廃炉事業の現状を確認する場として、2018年(平成30年)11月30日に開館。
- 基本的に多くの解説が映像と音声で行われ、標準的な所要時間として2時間程度は必要になります。
- 2階は【過去】をテーマに、福島原子力事故の発生状況と、事故からの反省と教訓を示した展示スペースです。
- 1階は【現在】進んでいる廃炉事業の状況を伝える展示スペースです。
- 原子力発電の賛否については原則的に言及が無く、政治性は感じられません。また、東京電力の謝罪のメッセージは、非常に真摯なものという印象を受けます。
今回、東京電力「廃炉資料館」を訪問して感じたのは、次の対照的な2つの点です。
- 「過去」についての事実の公開と、反省と学びはかなり進んでいる一方で
- 「現在」進んでいる廃炉作業は、まだ出口が見えない状況にあること
原発事故が発生した当時の状況については、かなり把握が進んでいて、対応の誤りなども隠さずに公開されています。
何かを隠蔽する意図は感じられず、東京電力の謝罪のメッセージも非常に真摯なものという印象を受けました。
随所で表明される謝罪の言葉が、俳優・声優による読み上げとなっているので、仮に下手でも実際の経営陣が読み上げた方がより望ましかったのではないか。
僅かにそう感じるぐらいで、過去に起こった重大事故に対して、企業が行う情報公開と謝罪の表明という点では、現時点でほぼ完成形になっていると感じられました。
企業の危機管理・情報公開・謝罪のひとつのゴールを示しているように思います。とくに企業の広報とか、危機管理の担当者は、訪問して得るものは大きいはずです。
その一方で、「現在」の状況が厳しく、「未来」はまったく不透明なことも実感します。
廃炉作業が完了するまでには、最短でも30年~40年はかかります。その間、東京電力「廃炉資料館」を定期的に訪問してみようと。少なくとも、その時々の状況を知ることは怠らないようにしようと思います。
「忘れない」ということは、何よりも重要な再発防止策となるはずですから。